アメリカに住むと決まったとき、誰もが口を揃えて言うのが「アメリカの医療費、特に歯医者は破産するほど高い」という怪談です。
元監査人の私、そんな不条理なコストをアメリカに1セントたりとも払いたくない。そう思い、渡米直前に日本の歯医者で完璧にメンテナンスを済ませました。
「これで数年は安泰よ」
そう思って直す必要もなかったクラウン(被せ物)の交換に9万円を支払い、意気揚々とアメリカに上陸した私でしたが、わずか数ヶ月後、私の口内でとんでもない「システムエラー」が発生したのです。
保険の一覧にあるのに使えない?謎のアメリカン・システム
渡米してまもなく、日本で9万円かけてやり直したはずのクラウン(被せ物)が、何やらグラグラし始めました。
気のせいだと思おうとしましたが、数日後には「グラングラン」の危険水域に。
慌てて夫のロナルドに伝えると、彼は「いい保険に入ってるから大丈夫!このネットワークの一覧から近所の近くの歯医者を選びなよ」と一点張り。
ところが、ロナルドがその病院に電話をかけると、受付から衝撃の一言が飛び出しました。
「あ、うちはその保険、扱ってません」
え、ちょっと待って? 保険会社が発行している「使える病院一覧」から選んだのよ? なんで使えないの?
1から10まで仕組みがわからないアメリカの医療に、最初から頭を抱えることになりました。
移民扱いからの「見積もり9,000ドル」大爆撃
埒が明かないので、在米20年以上の頼れる日本人の先輩に相談したところ、「私は歯の保険は入ってないの。でも、私が通っているところは、他の悪徳歯医者と比べると比較的良心的だよ」と教えてもらい、そこへ突撃することに。
しかし、そこで待っていたのは、アメリカの洗礼でした。
レントゲンを撮った歯医者は、私の拙い英語を聞くやいなや、私を完全なる「何もわからない移民」としてロックオン。結果を私に説明するのではなく、待合室の遠くに座っていたアメリカ人の夫・ロナルドをわざわざ呼びつけ、彼に向かって話し始めたのです(地味に屈辱!)。
「日本の歯医者がやろうとしたことはわかる。でも元の歯が小さすぎる。これはインプラントかブリッジしかないね」
ブリッジは隣の健康な歯を削ると聞いたので、インプラントで話を進めてもらうことにしました。
そして、手渡された見積書に書かれていた金額を見て、私の目玉は太平洋まで飛び出しました。
【Total: $9,000】(ざっくり日本円で約150万円※1ドル=150円換算)
歯1本に150万円!? 冗談でしょう!?
ちょうどレイオフ(解雇)されたばかりだったロナルドは、私の横で「そんな大金払えるわけない」と目が白くなっています。
昔聞いた、海外に嫁いだ友人たちの「旦那の保険じゃカバーできなくて(旦那さんは解雇されていません)、結局日本のなけなしの貯金から出した、だって悪いじゃん。」というリアルな口コミが脳内を駆け巡りました。
すきっ歯フライトと、在米(推定)25年の先輩が放った「悪魔の告発」
「150万円なんて絶対に払うものか。日本ならクラウンのやり直しなんて数万円、インプラントだって数十万円で済むはず。」
ちょうど数週間後に日本へ一時帰国する予定があった私は、日本の歯医者でセカンドオピニオンを受けることを決意。日本の歯医者に「あの9万円のクラウン、欠陥品だったんじゃないの?」とクレームを入れてタダにしてもらおうとすら目論んでいました。
ところが、身体は正直です。
日本へ向かうフライトのわずか3日前、私のクラウンはついに「ポロッ」と完全に脱落。
私は前列の歯が1本ない「すきっ歯」の状態で飛行機に乗り込み、太平洋を渡る羽目になったのです。
日本に到着後、その足で歯医者へ直行。
「先生、これアメリカで150万円って言われたんです」と泣きつくと、先生は苦笑いしながら言いました。
「あー、外れちゃったね。原因は硬いもの噛んだりとか色々だけど、なんとも言えないんだよ。これはやっぱりアメリカの歯医者さんのいう通りインプラントの方がいいかなあ、、、日本でインプラントにするなら、40万円だね」
40万円。アメリカの3分の1以下。
その瞬間、私の脳内監査システムが高速で弾き出しました。
「日本へ2往復して、美味しいものを食べて日本を満喫したとしても、アメリカで治療するより遥かに安い!!」と。
もちろん、その場で日本での治療を決定しました。
この話を在米(推定)25年の大先輩(さっきの先輩とは別)に話したところ、彼女から鳥肌が立つような名言をいただきました。
彼女、昔、歯医者の彼氏がいたそうなのですが、その彼女からの情報:
「アメリカの歯医者のの人たち、どうやったら患者から効率よく金を毟り取れる(もぎ取れる)かって会議開いってんだってよ!」
患者第一じゃなさすぎる。アメリカの医療、怖すぎるでしょ!
こうして私は、すきっ歯と引き換えに「アメリカの医療ビジネスには絶対に加担しない」という強い決意とお金を握りしめ、日本の歯医者のありがたみを噛み締めたのでした。
(つづく:次回、この歯医者トラブルを乗り越えた私に、今度は『精神科医ストライキ事件』が襲いかかります)

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